♦ 製造物責任法:第二世代、タイの製造物責任法(2008年)

 そこで、製造物責任法の第二世代が生まれました。2008年に成立したタイの法律(พระราชบัญญัติความรับผิดต่อความเสียหายที่เกิดขึ้นจากสินค้าที่ไม่ปลอดภัย พ.ศ. ๒๕๕๑)も、この第二世代に属します。ここでは、上記の四つの原則のうち、特に3と4が変更されます:

  1. 被害者の挙証責任が更に軽減される。被害者は「通常の方法でその製品を使用したり保存したりしていたにも関わらず、損害が生じた」ことを立証すれば足り、「製品の欠陥」も「欠陥と損害の因果関係」も直接に立証する必要がなくなる。
  2. 「開発リスク」に基づく免責は否定される。したがって、その製品を生産していた時の科学技術の水準では、その製品の危険性を認識できなかった場合にも、なお製造業者等はその責任を負わなければならない。

 このうち特に重要なのが3の点です。タイの製造物責任法には「安全でない製品(危険な製品)」という表現が使われていて、「欠陥」という概念がありません。それは「通常の方法で使用や保存をしていて損害が生じた場合には、『その製品に危険性(欠陥)があって、それが原因となって損害が生じた』と推定する(presume; ให้สันนิษฐานไว้ก่อนว่า…)」という意味です。これを「危険性(欠陥)の推定」、「因果関係の推定」と呼びます。

 この推定によって、挙証責任が製造業者等に転換されます。そして、製造業者等に「抗弁権(defense; สิทธิกลาโหม)」が認められます。これは製造業者等にとっても良い点です。つまり、もし「製品の安全性に問題がないこと(欠陥がないこと)」、または「被害者が間違った方法で製品を使用したり保存したりしたこと」を製造業者等が立証した場合は、「危険性の推定」や「因果関係の推定」が破られて、製造業者等は免責されます。その代わりに、「開発リスク」の抗弁権が廃止されたのです。

 以上のように、第一世代の場合と比べて、被害者の保護が一段と進みます。他方、製造業者等の注意義務は、一層重くなります。したがって今後、より安全な商品を開発して、品質管理(quality control)を十分に行い、適切な使用や保存の方法をわかりやすく説明するように、企業は努力しなければならなくなるでしょう。

♦ 製造物以外の商品に関する消費者訴訟

 さて、タイの製造物責任法は、もう一つの法律、「消費者訴訟手続法」(พระราชบัญญัติวิธีพิจารณาคดีผู้บริโภค พ.ศ. ๒๕๕๑)といっしょに成立しました。最後に、この法律について簡単に説明します。この法律は、消費者と、消費者を相手にビジネスを行う事業者との間の私法上の法律問題であれば、どんな事件にも適用されます。上で説明した製造物責任の裁判もその一つですが、製造物ではなく、「消費者ローン」のようなサービスを商品とするビジネスの場合にも適用されます。したがって、こちらの法律の方が製造物責任法より一般的だと言えます。そしてこの法律には、次のような原則が定められています:

  1. 契約に形式的な問題があっても、消費者に事業者を訴える権利を認める (มาตรา 10, วรรค 2)。
  2. 消費者本人だけでなく、政府の消費者保護委員会 (คณะกรรมการคุ้มครองผู้บริโภค)や、この委員会が公認した消費者団体なども、消費者の代理人として、事業者を訴えることができる (มาตรา 19)。
  3. 消費者訴訟では、訴訟の提起も口頭で行うことが許され(มาตรา 20)、証拠も文書でなくても良い(มาตรา 10, วรรค 1)。
  4. 消費者本人やその代理人が事業者を訴えるときは、第一審の裁判の費用を免除する(มาตรา 17)。
  5. 消費者訴訟では、まず仲裁(การไกล่เกลี่ย)または和解(การประนีประนอมยอมกัน)の交渉を行わせ、それが失敗した時にだけ、裁判手続きを始める(มาตรา 25, 26)。
  6. 契約を締結する時に、事業者が消費者にした約束は、たとえそれが契約書に書いてなくても、すべて契約の内容をなすと見なす(มาตรา 11)。
  7. 製造物やサービスの内容についての詳しい事実など、事業者自身にしか分からない点は、すべて事業者がその立証責任を負う(มาตรา 29)。
  8. 消費者訴訟で、裁判所が一度認めた証拠や事実は、他の消費者が同じ事業者に対して、同じ内容の訴訟を起こしたときは、それをそのまま適用する(มาตรา 30)。
  9. 悪質な事業者に対しては、懲罰的な損害賠償金 (punitive damages)の支払いを命じたり(มาตรา 42)、法人としての事業者だけでなく、法人を管理する個人などにも賠償責任を負わせることができる(มาตรา 44)。
  10. 裁判所がある製造物を「消費者の生命、身体、健康、精神にとって危険な物である」と認めた場合に、もしその製造物がまだ販売されていたり、消費者の手元に残っていたりするときは、裁判所はそれを修理したり回収したりするように、事業者に命令することができる(มาตรา 43)。

 以上が、特に重要な点ですが、そのなかでも2の点は大切です。これは「代表訴訟」(representative action)と呼ばれる制度で、ヨーロッパ諸国で生まれたものです。日本でも2007年に「消費者団体訴訟制度」が作られましたが、「不当な勧誘方法によって結はされた契約の取り消し」や、「不当な契約内容の無効」を訴えるためにだけ使える制度で、「損害賠償の請求」はできません。また「懲罰的な損害賠償金」や「法人を管理する個人などの賠償責任」も、日本ではまだ認められていません。ですから、タイの消費者訴訟手続法の方がずっと進んでいると言えます。なお、上記の9や10の点は、本当は行政法に属することであって、民事裁判に関するものではありません。

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