製造物責任法(平成6年法律第85号)の概要

【参照ウェッブページ】
製造物責任法(PL法)とは?
PL法論点別裁判例一覧
△ 厳格責任

 日本の製造物責任法は、平成6年7月1日に公布され、平成7年7月1日から施行されている。この法は、製造物や加工物などの製品に欠陥があったため、他人の生命・身体・財産が侵害された場合に、故意や過失の有無に関わらず、その製造業者・加工業者・輸入業者などに、損害賠償の責任があることを定めている。民法上の不法行為に基づいて損害賠償を請求するためには、加害者の過失を証明する必要があり、被害者が勝訴することは非常に難しい。そこでこの法律は、過失の立証を要件とせず、被害者の挙証責任を軽減したのである。

△ 適用対象

 この法律が適用される製品は、製造・加工された動産に限られる(第2条第1項)。したがって工業製品が主な対象だが、農林畜産物であっても、加工されていれば適用対象に含まれる。他方、コンピュータープログラムやサービスなどの無体物は除外される。

△ 欠陥の種類

 この法律は、加害者の「過失」に代えて、製品の「欠陥」を立証することを被害者に要求している。そしてこの「欠陥」を「当該製造物が通常、有すべき安全性を欠いている」状態と定義している(第2条第2項)。したがって安全性に関わりのない欠陥、たとえば美観や経済的な価値だけを害するだけの欠点は、この法律のいう「欠陥」から除外される。実際の裁判では、この「欠陥」は次の3種類に区別されている:

1. 設計上の欠陥:
製品の立案やデザインの段階で問題があり、必要な安全性が欠ける結果となった場合。

2. 製造上の欠陥:
製品の設計には問題がなかったが、実際にそれを製造する段階で問題が起こり、設計どおりの安全性が実現されなかった場合。

3. 指示・警告上の欠陥:
設計や製造の段階で問題なく製造された安全な製品でも、不適切な使用法をすれば、損害が生じるかも知れない。そうしたリスクを避けるために、安全な使用法に関する明確な指示や、間違った使用法に対する警告が利用者に提供されなければならない。そうした指示や警告が不十分である場合も、安全性に関する「欠陥」に含まれる。

△ 損害の種類

 この法律が保護の対象としているのは、製品の利用者個人の生命・身体・財産であって、純粋に経済的な損害(pure economic loss)は除外される。このため、当該製品自体の損害は含まれない。そうした損害の被害者は当該製品の所有者であって、所有者は、その損害に対して売買契約に基づく賠償や、品質保証に基づく賠償を請求することができるからである。したがって、製造物責任の対象となる損害は、契約上の責任でカバーされない「拡大損害」である。

 更に当該製品以外の財産損害であっても、もしその財物が利用者個人の私生活に関わるものでなく、純粋に営業用のものの場合、製造物責任の対象外となる可能性がある。イギリスやドイツの製造物責任法はこの点を明確に規定しているが、日本の法律には、そうした規定はない。

△ 責任の主体

 製造物責任に基づく損害賠償の主体は、当該製造物の製造者、加工者、輸入者または自己の名前や商号などを製品に明記した者である(第2条第3項)。日本の法律では販売業者は含まれていないが、フランスの法律では含まれている。なおヨーロッパ諸国の立法では、責任の主体が複数いる場合に、それらの者の「連帯責任」が規定されているが、日本の法律はこの点も規定していない。

【最近の事例】

◎ 給食食器破片視力低下事件(奈良地裁、平成15年10月8日判決)

〈事件の概要〉小学校3年生の女児が学校の給食で食器を片付けていたところ、強化耐熱ガラス製のボウルを床に落とした。ボウルは破損してガラスの破片が飛び散り、女児の右目に入って角膜を傷つけ、女児の視力が著しく低下してしまった。

〈審理の争点〉本件食器の商品カタログや取扱説明書には、破損した場合の破損の態様や危険性について十分な表示がなく、そのことが製造物責任法第2条第2項にいう「通常有すべき安全性に欠く」状態に該当するかどうかが裁判で争われた。

〈判旨〉本件食器の製造会社は、その商品カタログや取扱説明書等において、本件食器が陶磁器等よりも「丈夫で割れにくい」といった点を特長として強調しているが、割れた場合の破損の態様や危険性について警告する記載がない。本件食器は耐熱ガラス製であって、陶磁器などに比べると確かに「割れにくい」が、現に破損した場合の安全性では陶磁器などより優れている訳ではない。したがって、カタログや取扱説明書で「丈夫で割れにくい」ことを特長として強調するなら、併せて、割れた場合の破損の態様や危険性の大きさについても記載するなどして、商品の選択の際に的確な判断を促し、また、破損による危険を防止するためにも、消費者に対して必要な情報を積極的に提供するべきである。本件の場合、その取扱説明書にそうした記載が見当たらず、その表示において通常有すべき安全性を欠き、製造物責任法第3条にいう欠陥があるというべきである。

◎ イシガキダイ料理中毒事件(東京高裁、平成17年1月26日判決)

〈事件の概要〉原告らは、被告の経営する料亭で会食したが、提供された魚料理(イシガキダイの洗い)にシガテラ毒素(熱帯の海洋に生息するプランクトンが産生する毒素)が含まれていたため、食中毒に罹患した。

〈審理の争点〉本件料理の料理法である「洗い」とは、鮮魚の料理法の一つであり、三枚に下ろした魚を薄切りにし、流水やぬるま湯で身の脂肪分や臭みを洗い流した後、冷水に漬けて身を引き締め、水気を切ってから客に提供する手法である。この料理法が製造物責任法第2条第1項にいう「加工」に当たるかどうかが、裁判で争われた。また、本件被告が「業として製造、加工または輸入した者」に該当するかどうかという点も争点となった。

〈判旨〉本法第2条第1項にいう「製造又は加工」とは、原材料に人の手を加えることによって新たな物品を作り(「製造」)、又はその本質は保持しつつ新しい属性ないし価値を付加する(「加工」)ことをいう。そして食品の料理法の場合、原材料に加熱や味付けなどを行って、これに新しい属性ないし価値を付加したといえるほどに人の手が加えられていれば、「加工」に該当するというべきである。本件被告は、イシガキダイという食材を「洗い」という手法で調理し、それに新しい属性ないし価値を加えて「料理」として原告に提供したと認定できる。したがって被告の調理行為は、製造物責任法第2条第1項にいう「加工」に該当するというべきである。

 また被告は、「自分は個人として飲食店を経営しているだけで、シガテラ毒素による食虫毒という極めて稀有な事故についてまで損害賠償責任を問われることは、社会通念上相当ではない」と主張する。しかし、料理を客に反復継続して提供している以上、「業として加工した者」であることは否定できない。そのような営業者に対して、たとえ稀有な事故であっても、過失を要件とせずに製造物責任を負担させて、そのようなリスクを分散・回避するための措置を予め講じておくよう促すことが本法の趣旨であるから、稀な事故とはいえ、その責任は免れない。

◎ こんにゃく入りゼリー1歳児死亡事件(大阪高裁、平成24年5月25日判決)

〈事件の概要〉1歳9か月の幼児の両親がその子にこんにゃくゼリーを食べさせたところ、喉に詰まらせて窒息死した。両親は、このこんにゃくゼリーに設計上及び警告表示上の欠陥があると主張して、その製造販売会社に対して製造物責任に基づく損害賠償を求めた。

〈審理の争点〉裁判では、本件こんにゃくゼリーが「通常有すべき安全性」を欠いていたものと評価されるかどうかが争われた。

〈判旨〉本件被告は、平成3年にこんにゃくゼリーを製造販売し始めたが、その後、他社も同様の食品を販売するようになって、大量の商品が市場に流通するようになった。その間、平成7年から20年までの14年間に、死亡事故が22件、死亡まで至らなかった窒息事故が32件それぞれ報告されている。しかしながら、日本の伝統食品である餅による窒息事故の方がはるかに多数報告されていて、こんにゃくゼリーの危険性が特に高いとはいうことができない。したがって、この程度の頻度で窒息事故が発生したからと言って、直ちにその食品自体の安全性に問題があるとまではいえない。

 こんにゃくゼリーによる窒息事故は、その食品自体の危険性の問題ではなく、誰がどのように食べるかという食べ方の問題であって、それについては、その設計上の観点からも、本件警告表示の観点からも、本件こんにゃくゼリーが「通常有すべき安全性」を欠いているとは認められない。

◎ ヘリコプターエンジン出力停止墜落事件(東京高裁、平成25年2月13日判決)

〈事件の概要〉自衛隊の対戦車ヘリコプターがホバリング中にエンジン出力を失って墜落し、乗員2名が重傷を負った。そこで国は、本件ヘリコプターのエンジンに欠陥があったなどと主張して、同エンジンの製造業者に対して製造物責任に基づく損害賠償を求めた。

〈審理の争点〉裁判では、消費者個人ではなく、国家機関が製造物責任に基づく損害賠償請求の請求主体となることができるかどうかが争われた。

〈判旨〉国もまた、製造物責任法第3条に基づく損害賠償請求の請求主体となり得るいうべきである。まず第一に、本法は損害賠償請求の主体を「消費者」や「自然人」に限定していない。その理由として、製品事故の被害者が消費者に限られないこと、消費者損害と企業損害を区別することが困難であること等の点が考えられる。

 第二に、本法は「欠陥」や「因果関係」について、被害者の挙証責任を軽減するような特別の推定規定を設けていない。それは、本法が消費者保護のみを目的としたものではないからである。このため、民法上の不法行為法の原則に対する修正は必要最低限に抑えられていて、加害者に対して不法行為責任を追及する権利が国にも認められているのと同様、製造物責任を追及する権利もまた全く制限されてはいない。

 第三に、本法第1条がその達成目標として、製品事故が発生した場合に被害者を保護することによって、製造業者等に安全対策を促し、それによって将来の製品事故を防止して国民生活の安定向上に貢献することを規定している。この点を考慮すると、国や企業を製造物責任に基づく損害賠償の請求主体から除外することには、合理的な理由がない。

◎ エスカレーターからの転落事件(東京高裁、平成26年1月29日判決)

〈事件の概要〉本件は、店舗内に設置されたエスカレーターが故障して、男性客がエスカレーターから転落し、死亡した事件である。この事故の原因は、エスカレーターに組み込まれていた部品に欠陥があったためであった。

〈審理の争点〉エスカレーターは、店舗という不動産に設置されてそれと付合する(一体となる)設備であるため、それが製造物責任法にいう「引き渡した動産」に該当するかどうかが争点となった。

〈判旨〉製造業者等が、自由意思で流通過程に置いた製造物であれば、製造物責任法第3条にいう「引き渡し」があったといえる。本件では、エスカレーターを構成する部品に欠陥があったが、この部品を「引き渡しがあった動産」と考えることもできるし、また、この部品を組み込んだエスカレーター自体を「引き渡しがあった動産」と考えることもできる。

 まず第一に、この部品の製造業者が、エスカレーター製造業者に納入するために、それを工場から出荷して時点で、その部品は流通過程に置かれた。そして、エスカレーター製造業者は、その部品をエスカレーターに組み込み、そのエスカレーターを「完成品」として出荷して、それを当該店舗に設置した。この設置の時点で、エスカレーター製造業者は、上記部品を組み込んだ完成品を「流通過程に置いた」と言える。したがって、この時点においてエスカレーター製造業者は、動産である上記部品を「引き渡した」と考えることができる。

 さらに「完成品」としてのエスカレーター自体も、それ自体で独立した「動産」であって、それを建物に設置した時点でその製造業者はそれを「流通過程に置いた」と言える。したがって、このように考えた場合にも、製造物責任法第3条にいう「製造物の引き渡し」があったものと判断される。

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