民法の判例から

ケース(12):事情変更の原則
【事実関係】

 これは戦争中の事件である。Xは、Yから土地を買い受ける契約を結んだ。しかし、所有権の移転登記はすぐに行わず、後で行うことにした。そこでXは、代金の一部を手付金としてYに支払った。その後、XとYは話し合って移転登記の期日を合意し、それについて補充契約を結んだ。それによると、合意した期日にYが移転登記をしなかったときは、Xは直ちに契約を解除して、手付金の倍額を損害賠償として請求できることになっていた。

 ところが合意した期日の前日、政府は不動産価格を統制する命令を施行して、価格の上限を定めた。XとYが合意した売買価格はこの上限より高かったので、Yは知事の許可を得なければ、その価格で土地を売ることが許されなかった。Yは直ちに許可を申請したが、Xと合意した期日までにこの許可を得ることはできなかったため、Xに「許可を得るまで、移転登記はできない」と伝えた。それに対してXは「約束通りの代金を支払うから、移転登記をしてほしい」とYに要求した。しかし、Yはそれを拒否した。そこでXは、契約の解除をYに告げて、損害賠償の支払いを求めて訴訟を起こした。

 第一審裁判所も控訴審裁判所も、Xの請求を棄却し、その理由を次のように説明した。Yは契約通りに履行することができない状態にあるが、その原因は法律による価格統制であるから、Yに帰責事由はない。したがってYに債務不履行の責任がないから、Xは契約の解除をすることができない。そこでXが上告した。

【判旨】

 当時の大審院は、Xの解除を有効と判断して、その理由を次のように説明した。本件では、契約締結時から履行期に至るまでの間に価格統制令が施行されて、契約締結時に当事者が想定していた事情が全く変わってしまった。このため、契約通りの履行ができるかどうか、また、契約の目的が達成できるかどうか、当事者には全く分からなくなってしまった。それにもかかわらず、当事者をこの契約に拘束することは、不条理であって信義則に反する。したがって、こうした場合には、当事者は一方的な意思表示によって契約を解除することが許されると解すべきである。

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